life_in_technicolor's book blog

本を読んで「あー面白かった、次何読も」だけで終わらないように、思ったこと、考えたことを文章で表現しようと試みています。 解釈は私の勝手なもので、かなり稚拙なものが多いかと思いますが、読んで頂けると嬉しいです^^

『さよならサイレント・ネイビー』

『さよならサイレント・ネイビー』

伊東乾

 

この本の著者は、1995年に起きた地下鉄サリン事件の実行犯である豊田亨死刑囚の大学の同級生だった。

とても優秀でまじめで、関西弁で冗談をいつも言っていたような豊田死刑囚が、

なぜ突然出家し、最終的にこの事件に関わってしまったのか。

 

伊東は、「オウムは日本そのものだよ」と主張する。

つまり、日本の社会、教育、マスコミが豊田のような優秀な若者をオウム真理教に救いを求めさせてしまった。

オウムのオーディオ・ビジュアルあるいは覚せい剤を使ったマインドコントロールの手法の危険にさらされていない者はいない。

どれも科学的・専門的に検証され、人間の行動や思想を操る上で効果があると分かっているものばかりだからだ。

「オウムみたいな怪しい宗教に騙されるの一部のちょっと変わったエリート層の人だけ」と特に最近思っている人が多いかもしれないが、

現に豊田死刑囚のような優秀で真面目な人間が出家してしまっているではないか。

 

だから、伊東はこのようなこと、

つまり豊田のような優秀な若者が宗教団体に「拉致」されること、

地下鉄サリン事件のような事件、

あるいはオウムのような悪質な宗教団体のあり方自体

が二度と繰り返されないようにする必要があると強く訴えている。

 

タイトルにある「サイレント・ネイビー」とは、「黙って責任を取る」海軍のイデオロギーのことである。

豊田死刑囚はサリン事件について多くは語らず、真摯に自分の罪と罰を受け入れようとする。

しかし、これでいいのかと伊東は疑問を豊田及び日本社会に対して投げかける。

今回のサリン事件に限らず、第二次世界大戦や特攻隊についても言えることだが、

日本では必ず誰かが「黙って責任を取ろう」とするからこそ、

何も変わってきていないのではないか。

もし本当に日本を変えたいのであれば、

もっと細かいところまで色々話して、

再発防止に向けて社会全体が努めるべきではないか。

だから、『さよなら、サイレント・ネイビー』なのだ。

 

この本は一見著者から見た同級生の描写、地下鉄サリン事件オウム真理教についてのノンフィクションだが、

実際はこのような強いメッセージを豊田及び日本社会に対して発信しているのだ。