『哀愁的東京』
この本のテーマは「寂しさ」です。
登場人物に共通していることは、
一見周りに羨ましがられるような功績を収めているような人物であるにも関わらずがゆえに、
寂しさに苦しんでいるという点です。
急成長して注目を浴びてきた会社の社長や、一時期みんなの憧れだったアイドル、そして過去に一度だけ賞賛された絵本を出した作家…
彼らは過去に注目され、成功を収めてきたからこそ、その成功が持続できなかったり、忘れられそうになったりしていることに苦しんでいるのです。
最終的には「もはや自分でなくても良いのでは?そもそも自分って誰だ?」と自分に問い質すようになってしまいます。
昔優秀だった高橋という登場人物が自らのアイデンティティを喪失し、パニック状態に陥っていて絵本作家の進藤にすがる様子が特に印象に残っています。
これは所謂「中年の危機」というやつで、ほとんどの人がいつかは経験することなのかもしれませんが、その危機感と言うか、切迫感が私にとって衝撃的でした。アイデンティティを見失うことがこんなに怖いもので、こんなに精神や判断力にダメージをもたらすのかと。
いつかは自分も同じように自分を見失ってしまうことがあるのかなぁ。
そう言う考え方に陥ってしまったときでも、しっかりと自分を確認できるように、こういうブログでも日記でも何でもいいので自分の考え方や生き方を形に残しておきたいなぁと改めて思いました。
絵本作家の進藤さんが最終的に新しい絵本を書いて、それが売れるというところまで話は進みません。どのエピソードも解決にまでは至らず、なんとなくこれからもこの人たちは堕落して行くんだろうなという悪い予感がしてしまいます。
過去を再現することはできません。過去の環境も周りの人間も、自分も全て刻一刻と変化しているので、元に戻すことはできないのです。
でも過去に残した功績は本物ですし、そこには過去の自分の努力や考え方、生き方がたくさん詰まっています。本作品の登場人物そして似たような感情を抱いている人もそんな昔の自分を信じて、過去ほど全てが上手くいくことはなくても、決して希望を忘れずに生きていってほしいです。