『まほろ駅前多田便利軒』
『まほろ駅前多田便利軒』
私が読んだ三浦しをんの作品は『舟を編む』に続いて2つ目です。
どちらの作品も珍しい職業(辞書の編集者、便利屋)を取扱い、
ちょっと変わった登場人物たちの日常生活を絶妙にユーモアを交えて書いているところが気に入りました。
さて、本作品で主人公は「便利屋」を営んでいます。
この本を読んで、どれくらい本当かは分かりませんが、かなりめちゃくちゃなことを便利屋さんに押し付ける人がいるんだなぁー、とまず思いました。
個人的に依頼をしたこともなければ知り合いにこのようなお仕事をしている人がいないので、
実際はどうなのかは分かりませんが、この多田便利軒の特徴は、
ただ依頼された仕事を処理するだけでなく、
世の中をもっとよくしていこうと色んな人のつながりや人の幸福についてかなり考えて、ちゃんと仕事後依頼人の人生のフォローをしているところです。
その点、便利屋さんに仕事を依頼している人々は、目先のめんどくさい仕事だけでなく、色んな人間関係や日常生活のうちめんどくさいと思っている部分も知らないうちに便利屋さんに押し付けていると言えるのではないでしょうか。
この本を読んでいて、私は人間関係の薄っぺらさを何度も感じました。
ずっと一緒にいてもお互いのことをあまり知らない、
親しい人・信頼できる人に頼めるような仕事を見ず知らずの業者の人に外注する・・・
現代社会の弊害というか、まぁ最近ではよくあるような話なのでしょうが、
周りの本当は親しいはずの人間よりお金で雇っている人の方が自分のこと、家族のことを気にかけてくれるって、ちょっと寂しいですよね。
そしてこの本の最大のテーマは、「幸福は再生する」ということです。
便利屋さんは、上に述べたように、社会におけるこの幸福の循環を促す仕事をある意味でしています。
しかし、よく見ると多田自身、自分の人生の思い出したくないこと、めんどくさいことをいつまでも引きずり、ちゃんと後始末できていません。
でも自分の気持ちの整理を付けて、他の人の助けになろうと努力をすることで、
知らぬ間に「幸福は再生する」のです。
面白おかしく書いてある本なのですが、ところどころ深いセリフもあるので、
油断できない一冊です。