life_in_technicolor's book blog

本を読んで「あー面白かった、次何読も」だけで終わらないように、思ったこと、考えたことを文章で表現しようと試みています。 解釈は私の勝手なもので、かなり稚拙なものが多いかと思いますが、読んで頂けると嬉しいです^^

『イニシエーション・ラブ』

『イニシエーション・ラブ』

乾くるみ

 

恥ずかしながら、この本を一年前に読んだ時、ただの恋愛小説だと思ってふーんで終わってしまいました。

最近しゃべくり007で有田哲平が「最後え―――ってなる」と言っているのを聞いて、

そんな話だったっけなぁー?とぼんやり思いました。

そして先日友人が読んで感想を聞かせてくれたのですが、どうやら私は重大なところを見落としていて、本の主旨を全く理解できていないようでした。

 

そこでもう一度読み直したのです。

(当たり前ですが)一度どういう話か説明されて読みなおすとなるほど、ミステリー小説と称される意味が良く分かりました。

 

この本はミーハー恋愛小説と見せかけて、

実はかなり巧妙に練られていて、人間の表裏(実際第1部と第2部は"Side A" "Side B"と表現されている)が見事に描かれています。

まぁここまで極端なことはないですが笑

 

どのキャラクターも裏と表の側面を持っています。

夕樹は一見無口でまじめな「NHKのアナウンサーみたい」な青年ですが、

実はタバコを吸うし、お酒が入るとはっちゃけるし、

辰也も一見しっかりしたイケメンキャラですが、

たまに精神のバランスを崩して暴れたりします。

一方の繭子もイノセントなように見えがちですが、

実はかなりの悪魔で恐ろしい一面もあります(中絶≠便秘)。

石丸さんも普段はお嬢様ですが、

舞台に立つと様々な顔を見せることができるのです。

 

この本を読む上で注目すべきポイントは、「名前」だと思います。

自分の名前が嫌いだと言う繭子は、

自分が間違えないように二人の男性(共に名字は鈴木なので、読者は惑わされる)を「たっくん」とよぶようにします。

一方でそこまでの対策を練っていない辰也は、

石丸さんの名前を言ってしまうことによって浮気がばれてしまいます。

最後の二行で本の要旨が分かるのも、辰也の名前が呼ばれるからです。

シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に「名前って何?」というセリフが出てきますが、

この本のテーマも似ていて、

私たちがいかに名前を使ってお互いを認識しているか、

つまり個人のアイデンティティを形成・理解する上でその人の名前がいかに大きな役割を担っているかが分かるのです。

私たちは(少なくとも私は)勝手にSide Aの鈴木君とSide Bの鈴木君が、名前が一緒だから同一人物だと勘違いしていましたが、

その名前が別々だと分かって初めて彼らが同一人物ではないということを理解できるのです。

 

みんなが「2回読みたくなる本」という理由が良く分かります。

私みたいに一回読んで分からなかった方は、ぜひもう一度登場人物の「名前」に注目しながら読んでみてください。

 

『MAKERS』

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

クリス・アンダーソン

 

しばらく小説が続いたので、久しぶりにノンフィクションを紹介します。

 

著者のアンダーソンといえば、WIREDという雑誌の編集長で、他にも『ロングテイル』や『フリー』などのベストセラーを書いています。

この記事ではまず、このアンダーソンという人物のすごさを訴えたいと思います。

WIREDという雑誌には日本語版もあって、読んでみたことがある人なら分かると思うのですが、取り扱われている内容はかなり幅広く、しかも読者が読める媒体もウェブサイトやタブレットなど、早くからデジタルに移行して行ったことが特徴です。

その編集長、アンダーソンはWIREDを制作している上で得る知識を基に議論を展開し、分かりやすくかつ興味深い事例を私生活や世界経済(どこからこんな情報仕入れてくるの?と思うような中国の全然聞いたことないような企業の事業とか)から引っ張ってきて、書籍にまとめ上げます。

 

上に挙げた2冊と『MAKERS』は確かにどれもイノベーションをテーマにしていますが、

例えば『フリー』が価格設定に焦点を当てているのに対して、

『MAKERS』は製造やデザインがメインとなっています。

つまり、全く異なる分野や現象の知識が問われているのですが、

アンダーソンはまるで雑誌の記事を書くかのようにしっかりかつおもしろくどちらの本も書きあげています。

その知識の量とプレゼンテーションの方法が素晴らしいです。

 

さて本書の内容ですが、端的に言うとインターネット・3Dプリンター・オープンイノベーションを通してモノづくりが変わったということです。

かつて何かを発明するとなるとそれは自力で開発・生産し、特許を取得して販売して・・・

という流れでしたが、最近ではネットでアイデアを開示して資金を集めたり、

「分子を売ってビットは無料で配る」つまりハード(プラットフォーム)を製造販売し、ソフト(プログラム)を誰もがアクセス・改良できるようにすることによって製品を改良していったりできてしまうのです。

更に、まだ技術は完成していませんが、3Dプリンターなどが分子レベルでモノを作れるようになったら・・・

またモノ作りは大きく変わってくるでしょう。

 

20世紀は大量生産、General Motors, General Mills, General Electricなどの総合メーカーが強かった時代ですが、

これからはカスタマイゼーション、1つのことに集中する無数の小さなベンチャーアントレプレナーたちが活躍し、

どんどん新しいモノを作っていく時代になるでしょう。

 

科学技術の進歩、ビジネスの仕方の変化、独創的な発想を持った人々の話に触れて、

もしかしたら自分も何か作ってこの世に出せるものがあるのではないかと考えさせられる一冊でした。

『パレード』

『パレード』

吉田修一

 

またまた吉田修一です。

この作品もまたわけも分からず適当な感じで生きている若者を見事に描いています。

そして後々ふりかえってみると相変わらずのディープさです。

 

どの登場人物にも若干自分を見いだせるせいか、

誰ひとりとして嫌いになれません。

作品の終盤になると自分も登場人物と仲良くなっている感覚が味わえるのが不思議です。

 

この作品のエンディングはかなり意外で、

とても驚きました。

残りあと10ページくらいのところで、

どうやって話にオチを付けるのかと思っていたところで、

いきなり「えーっ」って感じです笑

 

なぜこの本のタイトルは『パレード』なのでしょうか?

本の中に(私が把握している限り)パレードは一切出てきません。

 

私が思うに、

パレードってお祭り騒ぎの中で色んな人が登場しては去り、

登場しては去り、

その時は一生懸命前を通っていく人を見ているけど、

通り過ぎてしまえば一人一人をどれくらいちゃんと覚えているかといわれると、

ほとんど覚えてませんよね;;

 

この本に登場するシェアハウスもそんな感じで、

一緒に住んでいて仲もいいのに、

お互いに家にいる時の顔しか知らない、

Appearance vs. Reality的な要素が強調されている気がします。

実はみんな自分の人生の中で知り合う人のことをその時は分かったつもりでいるけど、

その人が立ち去ってしばらく会わないうちにその人と話したことや言った場所を忘れてしまい、

場合によってはその人の存在自体を忘れてしまう。

 

人生自体がパレードで、私たちは傍観者。

パレード(人生)は止まることなく流れ続けて、

私たちはそのパレードに登場する人(私たちが人生の中で出会う人)をその時はよく見ているつもりだけど、

その人が私たちの視界に(人生に)現れる前何をしていたかとか、

その後どうしているのか、

そもそも普段他の場所や他の人の前ではどのような人間なのか、

実は何も知らない。

 

さすが吉田修一、『パレード』というタイトル自体が大きな比喩で、

一見濃密だけど実は希薄な現代の人々の人間関係を描いている気がします。

 

『青が散る』

青が散る

宮本輝

 

青春系の小説は基本的に苦手なのですが、

この本は上下巻ともすっと読めました。

 

新設大学のテニス部が題材となっていて、

主人公たちの入学から卒業までの4年間がつづられています。

 

タイトルの『青が散る』とは、

この4年間の間に咲き誇る主人公たちの青春と、

彼らが在学中に大人になって

その青春が大学卒業とともに幕を閉じる様子を表現しているのだと思います。

 

この本には二つのパラドックス的な対比が紹介され、大きくテーマとして取り上げられている。

1つ目が「覇道と王道」。

テニスが「上手い」ことと「強い」ことは決して同じではない。

もし王道のテニスで勝てないのであれば、相手を惑わすような覇道で勝負に挑め、

という意味が込められた言葉です。

どうしても勝てない相手や解決できない問題に直面した時、

少し考え方や見方を変えて見て、

新たな切り口で挑んでみる。

これは日ごろから意識したいことですね。

 

もう1つが「自由と潔癖」。

これが個人的に本小説の中で最も印象に残っている言葉です。

「若者は自由でなくてはいけないが、もうひとつ、潔癖でなくてはいけない。自由と潔癖こそ、青春の特権ではないか。

自由は理解できるにしても、

この「潔癖」とは何を意味するのでしょうか?

個人的には「まじめさ」というか、

人生を無駄にしないための一種の積極性だと認識しています。

つまり若い人たちは自由だからと言ってだらだらと毎日を過ごしたり、

自分でやってはいけないと分かっていることを続けたり、

していてはその限られた自由の時間を無駄にしてしまうのです。

だから、その自由を精一杯享受するためにも、

無駄な時間を一切排除するくらいのストイックさ、まじめさ、あるいは「潔癖」さが大事なのではないでしょうか?

 

この小説はあらすじだけを見ると青春くさくて、

「あーまたこの手の小説か」ってなるのですが、

実際このように発信しているメッセージは深く、

読み応え・考えがいがある作品です。

『横道世之介』

横道世之介

吉田修一

 

吉田修一はまったシリーズ第3段はこの作品です。

今まで読んだ『熱帯魚』や『パークライフ』と比べてライトな感じで、読みやすかったです。

でもその一方で私が好きな吉田修一のシンボリズムや鮮明な描写が少なかったので、

他の作品の方が個人的には気に入っています。

 

吉田修一の小説に登場するキャラクターたちはダメ男が多い気がします笑

でも嫌いになれない人たちばかりです。

横道世之介は名前だけを聞くととても立派で印象的なのですが、

かなりだらしない男です。

そのため(?)数年後に登場人物たちが横道のことを回想する時、

ほとんどの人が彼の名前を覚えていません。

そして良く見ると「横道」とか、「世之介」の「世」も漠然とした印象の字ですし、

横道は結局色んな人の人生にふらっと登場してすぐ通り過ぎていく

カフェに座ってたら前を通って歩いていく

そんな人間なんだなぁと最後は思ってしまいます。

ていうか結局人生の中で出会って本当に仲良くなる一部の人を除けば、私たちはみなほとんどの人にとって横道世之介のような通行人にすぎないのではないでしょうか。

 

あと、この本の面白いところは、

主人公横道世之介の視点から語られる部分と、

周りの人物が何年後かに語る横道世之介を思い出すシーンが交互になっていることです。

横道のナレーションは時系列で、約1年間の出来事が紹介されますが、

他の人物のナレーションはむしろ逆時系列というか、

大人になった横道についての情報が徐々に明らかになるようにできています。

 

ふー、こうやって書いていると十分シンボリックな作品な気もしてきました笑

ちょっと一休みにおすすめの作品です。

『夜間飛行』

『夜間飛行』

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

 

サン=テグジュペリと言えば、『星の王子様』が有名です。

今日は彼の長編小説に挑戦してみました。

 

『星の王子様』も一見子供向けですが、

実は大人が読んでもとても深い話なので、

しばらく読んでない方はもう一度読み直すことをおすすめします。

 

さて、『夜間飛行』はタイトルから推測できる通り夜間に郵便物を運ぶ飛行機の話です。

この時代の飛行機の性能はまだ安定していなかったし、

無線の技術も今日ほど発達していませんでした。

そのため、夜に飛行機を飛ばすことは大変危険なことでした。

 

私はこの本を読んで、

近代化の餌食にされる当時の人々の生活がはっきりと描かれていると感じました。

飛行機を飛ばす人たちには家族がいて、当然命があります。

でも近代化は彼らにパイロットとしての責任を果たすことを要求し、

彼らは暗闇の中で嵐に飲み込まれ、

立ち向かうことが全くできない中ひたすら脆弱な飛行機を飛ばし続けます。

 

サン=テグジュペリの他の作品同様、大変シンボリックなお話で、

他に言いたいこともたくさんあるのですが、最後にこの本で最も美しいシーンを紹介したいと思います。

それは嵐の中で遭難するパイロットファビアンが雲を抜け出し、

晴れ渡った星空の下で飛行機を飛ばす場面です。

空を宝石箱にたとえ、彼が間近に迫った死をおとなしく受け入れるシーンは、本当に美しいです。

 

最初この本を電車でちょっとずつとか読んでいたのですが、

どうも入りきれなくて、

一気に読むことにしました。

一度読み始めるとすぐ終わる短いお話なので、

少し時間を作ってしっかり集中してじっくり味わって見るの方が良い作品だと思います◎

『ホテルローヤル』

ホテルローヤル

桜木紫乃

 

最初はあまりにえろいのでどうしようかと思ったけど、

最後がきれいに終わってすっきり笑

 

この本は逆時系列型に進行(後退?)していきます。

つまり、最も最近あった出来事が最初に書いてあって、その後どんどん話が遡って最初に戻ります。

 

ホテルローヤルという自然豊かな場所にあるラブホで繰り広げられる色んなストーリーが順番に出てくるのですが、

最初は結構感じ悪いというか、

エピソードの進み方といい終わり方といいなんか話が悪く終わる気しかしないのですが、

後半はハッピーエンドに落ち着いて終わってくれるので、安心して読めます。

 

一点だけ気になることがあるのですが、

この本ではホテルで自殺したカップルが他の登場人物の話の中で出てきます。

そのカップルの話もエピソードの1つとして紹介されるのかと思いきや、

全く出てこなくて、

でも一個だけホテルローヤルとは全く関係のない話も入っているのですが、

もしかしてその話に登場する2人がのちに自殺するんですかねー。

 

それにしてもなんか、

楽しい場所として夢を持った創業者ががんばって作ったホテルなのに、

結局行く人は後ろめたさとか辛い思いで一杯で、

ホテルはそのみんなの辛い気持を散々吸収した揚句、

創業者とともに寂しく廃れてなくなっていく・・・

って悲しいですね。

この本が言いたいのもそう言う感じのことだと私は解釈しています。

つまり、どんなにきらきらしていて夢が一杯詰まっているように見えるものでも、

本当はそう見えているだけで、現実をしっかり見ている方が実は幸せだということです。

 

んーでもこれは相当私の主観も入っているし、

かなりいいように解釈している気がします。

あんまりおすすめはしません。